別冊NHK100分de名著 読書の学校 池上彰 特別授業 『君たちはどう生きるか』 書評
本の情報
タイトル:別冊NHK100分de名著 読書の学校 池上彰 特別授業 『君たちはどう生きるか』
著者:池上 彰
出版:NHK出版
他:ムック 2017/11/25 120ページ
作者:吉野源三郎 1937年刊行
どんな本か一言まとめ
池上彰氏が高校生・中学生に行った特別授業を通じて、「どう生きるか」考えてほしいと投げかける本
おすすめする読者
- 少しでも「よりよく生きたい」と考える全ての人
本のポイント
- 豊かさ
- 友だち
- どう生きるか
解説と感想
豊かさ
本書でとりあげたこの部分が印象的だ。
学校や世間で立派なことだと教わったことを、教えられたとおりに生きていこうとするなら、一人前にはなれない。君自身が心から感じたことや、しみじみと心を動かされたことを、大切にしなくてはいけない。
生み出してくれる人がなかったら、それを味わったり、楽しんだりして消費することは出来やしない。生み出す働きこそ、人間を人間らしくしてくれるのだ。
会社でも学校でも「上司や先輩や友達はみんなやっている」から、やるのか? それは自分がやりたいことなのか? 心の痛みはないか? 自分を誇れるのか? 生きるとは、豊かさとは?
私は本書を読んでいて、ふと自問自答した。私は、きっと堂々と胸をはれるほど自分を誇ることはできない。そんな人が多いのではないだろうか。
勉強ができる、仕事ができる、お金がある、お金を使って楽しむ。それも大事だろう。
ただ、本当に心に「豊かさ」を感じているのか。毎日毎日を誠心誠意、魂をぶつけて、生きているか。そんなことを考えさせられた。
友だち
著者の池上氏は授業の中で中学生に以下のように述べている。
「先輩に殴られるなら、一緒に殴られよう」と3人の友達が語り合うエピソードがあった。極端な例だが、友達だちがつらい思いや苦しい思いをしているときに、あなたならどうするか。受験競争が激しくなり、同級生が体調を崩したりしたときに、内心ではほっとしたり、チャンスかもしれないと考えたり。そういう自分の心の悪魔とどう戦うか。
友だちに限らず、「この人のためなら大変な目にあってもかまわない」と思える存在は、生きていくうえで大きな意味や価値を持つ。
そしてその後、物語の主人公は、他の友人2人が友だちを守ろうと立ちはだかったのに、勇気を出せず、震えて飛び出すことができなかった。主人公は大きく悔やんだが、謝罪の手紙を出し、元の仲の良い関係に戻ることができた。どんな過ちや苦しい経験も、その後の生活に生かせれば無駄にはならない。大切なのは、自分が犯した過ちときちんと向き合い、自分はどうすべきだったかということを考えて、心に刻むこと。
これは、大人になるほどできなくなっていくものかもしれない。「自分は仕事で忙しい」、「面倒ごとに巻き込まれる」から「仕方なく」同僚や仲間を助けられない。
「あいつが悪い」「仕方がなかった」と自分を正当化し、愚痴りながら酒を飲む。
いつしか、自分の過ちを過ちとも思わず、向き合うこともなくなり、向き合うときのあの苦しい大事な感覚を忘れていく。こういった積み重ねが「人間らしさ」をなくしていくのかもしれない。
どう生きるか
「君たちはどう生きるか」の作品内で、池上氏は以下をとりあげている。
英雄とか偉人とか言われている人々の中で、 本当に尊敬ができるのは、人類の進歩に役立った人だけだ。そして、彼らの非凡な事業のうち、真に値打ちのあるものは、ただこの流れに沿って行われた事業だけだ。
*上の内容は、ナポレオンの英雄的エピソードと、ロシア遠征での約60万人の兵を死なせたことを踏まえている
良い心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かしきれないでいる、小さな善人がどんなに多いか。世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気はくを欠いた善良さも、同じように空しいことが多い。
80年前から何も変わっていない。紛争がなくならない世界情勢と、「小さな善人」。大なり小なり、私もあなたも「小さな善人」であろう。「生き方」、そして「どう生きるか」。こんな複雑な世界だからこそ、自分自身にこのテーマを追求していきたい。
まとめ
著者の池上氏は「歴史」と「本を読むこと」で「ぜひ考えてほしい」と強調している。「いま」を考えるうえで、本質を理解するには、「背景の歴史」を知ることが大切である。また、本を読むことは「答えを知ること」ではなく、「自分で考えてみる時間をとる」ことが大事だと述べている。
これは「君たちはどう生きるか」の最大のテーマであり、私たちはずっとそれを探し続け、苦しみながらも実践していくのだと思う。そして、その積み重ねこそがまさに「生きている」ことなのだと思う。
今からでも遅くはない。年齢なんて関係ない。毎日毎日を誇れるように、少しずつでも「生きて」いく。そんな勇気をくれる本だと思う。